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2000年 11月号 特集
今回がグランド・キャニオン特集の最終回。
グランド・キャニオンの環境保護を考え、その後ノース・リムまで足を伸ばしてみよう。 |
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| ノース・リムに向かう途中のカイバブ高原 |
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より静かでよりきれいなグランド・キャニオンを目指して
国立公園局は、10月26日にサウス・リムのマサー・ポイント近辺に新ビジター・センターを設立。このビジター・センターには、シャトルバスの発着駅も備えられる。
当局は、これまで懸案となっていた公園内の自動車による騒音と廃棄ガスを追放する方策を、いよいよ実行に移すべく腰を上げた。 現在年間1500万台の自動車がグランド・キャニオン国立公園内を往来/駐車しており、連邦政府は、2004年までにこれらの自動車を公園内からシャットアウトすることを目的としている。
まず、第一段階として、グランド・キャニオン・ビレッジの混雑を解消するために、ビレッジから東に1.5マイル離れたマサー・ポイントにビジター・センターを設け、150台分の駐車場を設置。観光客は、この新ビジター・センターからシャトルバスに乗ることができる。
次の段階は、公園ゲートの南、ツサヤンの北に2,800台収容可能な駐車場を建設。そして、そこを出発点とする電車を走らせる。この電車は、1時間に4,200人の観光客を公園内に移送する能力を持つ。
公園内では、シャトルバスの運行距離を40マイルまで延長し、東のデザート・ビューから西のハーメツ・レストまで走る。
また、今後10年計画で35マイルのハイキング・コースや自転車用トレールなどをサウス・リムに建設する。
この大がかりなプロジェクトは、グランド・キャニオンの環境保護を目的とし、成功すれば全米の国立/州立公園も追随してい くことになろう。 |
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グランド・キャニオンほどバラエティーに豊んだ動植物が一箇所に集まっている所は、世界の中でも珍しい。287種の鳥、88種の哺乳類、50種の爬虫類、8種類の両生類が生息し、植物は、砂漠のサボテンから高山の白樺まで、数え切れない種類の草植物を見ることができる。
このような広範囲な種類の生体系を作り上げた要因はただ一つ。標高だ。グランド・キャニオンは底の1,200フィートからノースリムの9,100フィートまで標高の差が著しく、それぞれの標高に合った動植物が生息することになる。北米全体の60%の動物がこの地に生存しているのも納得がいく話だ。
グランド・キャニオンに生存する最大の動物はエルクと呼ばれる大型の鹿。現存のエルクは、ロッキー・マウンテン・エルクと呼ばれ、実は1913年から1928年の間にイエローストーン国立公園から運ばれて定住したもの。
では、もともとこの地にいたエルクはと言うと、残念ながら100年ほど前に絶滅してしまった。その原因は明確ではないが、ハンターによる乱獲、病気、または他の動物との生存競争に負けたこと、などが考えられる。
その他、レイヨウ、山ねこ、熊、羊、リス、コヨーテ、キツネ、ラクーン、ビーバーなどが生息している。 |

道路近くまで姿を表わす動物達 |
人口が増えれば、公害が発生し、環境が破壊される。これは、近代文明が抱える大きな問題だ。グランド・キャニオンも例外ではない。その人気のお陰で、当地を訪れる観光客は比類の数。1919年、グランド・キャニオンが国立公園に指定された年に当公園を訪れた観光客は45,000人。ところが、現在は毎年500万人が殺到する。
野性動物の保護
当国立公園又、連邦政府は、野性動物の保護に力を入れてきた。とりわけ、観光客に訴えている点は、餌を動物に与えない、と言うことだ。野性の動物に人間が餌を与えると、動物は人間の食べ物に頼ろうとする。又、人間が捨てたり与えたプラスチックや紙の袋も鹿などが食べる。こうした鹿は、病気になったり、体力を失う。また、人間の食物に頼ると、食物を奪おうと人間を襲ってくることも頻繁に起こる。そのために、人間の食物に頼る鹿は、公園内で意図的に射殺されている。
したがって、本人の安全ためにも、動物の保護のためにも、餌を与えることは厳禁だ。
グランド・キャニオンには、遠方の都市や、周辺の発電所などから汚染された大気が流れ込み、公園内の視界が悪化している。又、観光客の自動車から廃棄されるガス、キャンプファイヤーの煙など、人間が持ち込む汚染は後を絶たない。
1996年6月、グランド・キャニオン視界向上委員会は、コロラド高原一帯の広範囲な視界の向上を目指すため、包括的な実施提案をした。これには、大気汚染の原因となる一切のものをターゲットとし、自動車の廃棄ガスやキャンプファイヤーも含まれている。州政府、インディアン部族政府、その他官公庁を会員とする当委員会は、この提案を元に積極的に一般市民の教育を促進し始めている。
本年8月には、当委員会は、大気内のSO2(亜硫酸ガス)を今後20年間で徹底的減少させることを目標として掲げた。これには、法規制も考えられており、今後の動きが注目される。
しかしながら、大気汚染は今日も更に進んでいるのが現実なのだ。
観光客が公園内で捨てるゴミは、ただ単に見苦しいだけでなく、動物にとって有害だ。国立公園局では、公園内の各所にゴミ入れを設けており、節度正しいゴミ処理を訴えている。
また、リサイクル可能なゴミ(新聞紙、あき缶、プラスチック、ガラスなど)を扱うために、リサイクル用のゴミ入れを設置している。公園内のホテルの客室には、リサイクル可能な紙/プラスチックを設置し、便箋や封筒などもリサイクル紙を使用している。
グランド・キャニオン上空を飛ぶ飛行機やヘリコプターが出す騒音が問題となって久しい。1962年にツサヤンの南に空港が出来て以来、交通量が急増。1993年には、535,000を超える人々がこの空港を利用している。当空港は、利用客数でアリゾナ州3番目にまでなってしまった。
上空の騒音は、オオツノヒツジからハヤブサに至る多くの野性動物に悪影響を与え、自然愛護の諸団体から規制を求める声が揚がっていた。
連邦航空管理局は、本年5月、グランド・キャニオン上空のツアールートを削減することを法律で規定すると発表。また、アメリカ・インディアンの居留区で、何世代と静寂な自然の中を伝統を守って生活していた彼等の保護も、目標に含まれている。
観光化が進んでいるサウス・リムに比べて、ノース・リムは、はるかに静かだ。その理由は、何と言っても交通の便による。サウル・リムからノース・リムへ、真直ぐ行ければ問題はないのだが、実際に自動車でサウス・リムからノース・リムまで行くとなると大変だ。何せ巨大な穴の周りを走ることになるのだから。距離では220マイルという長旅だ。しかも、ノース・リムは、サウス・リムより標高が1000フィートも高く、気温が低く冬の訪れが早い。そのために、年間を通して5ヶ月しかオープンしていない。冬は降雪のために道路が閉鎖されるのだ。
では、ノース・リムの魅力は何なのか。それは自然の美だ。サウス・リムでは、人間の集団を見に来たような思いを抱くことが多いが、ノース・リムでは、野性の鹿やリスが視界に次々と現われる。また、ノース・リムに行く途中の景色の美しさは、例えようがない。車窓から見る白樺の林や野性の動物達の姿は、正にアメリカ高山の大自然の極みを思わせる感がする。 |
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ノース・リム近辺の白樺林 |
カイバブ高原は、グランド・キャニオンのノース・リムの北部に広がっている高原で、野性の鹿が生息している。この高原は、グランド・キャニオン国立公園とカイバブ国立森林の管轄下にある。
ここに生息する鹿が1920年代にその数を急増させたことから、生体系の変化が顕著となる。いったい何が起こったのか。それは、鹿を食べる肉食動物の激減が原因だった。
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| カイバブ高原でのんびり草を食べる牛達だが..... |
カイバブ高原に入植した人々は、この高原に牧場を作った。1890年代の後半には、羊が20万頭以上、牛が2万頭以上、馬が3千頭以上放牧されていた。この数は、当地にいた鹿の数をはるかに超えるものだ。大量の家畜の放牧は、この一帯の草木の生長システムに影響を及ぼし、鹿が好む若葉の生長を促したようだ。食料が豊富になったために鹿の数が増化する。
同時に政府は、家畜の保護のために、家畜を狙う可能性のある肉食動物をかたっぱしから殺りくしていく。1906年から1924年の間にハンター達は、このカイバブ高原だけで、コヨーテを3,024匹、マウンテン・ライオンを674頭、狼を21匹殺したという記録がある。それ以外に当高原に隣接する各所でも同様のハンティングが行われた。
一方、鹿の方は、狙ってくる敵がいなくなり、食物が豊富になったので、いきおい人口?増加を起こす。1906年には4千頭であったのが、1924年には10万頭にまでなってしまう。
ところが、1924年の夏に降水量がほぼ0であったために、鹿の食料である草が繁殖しないで、1924から25年の冬には、深刻な食料不足に陥ってしまう。そして、高原全体の3分の4の鹿が飢え死にしてしまったのだ。鹿の生存数は1930年までに、10,000頭にまで減少する。
そこで、政府は鹿の救命に乗り出す。鹿をカイバブ高原から追い出し、もっと食料が豊富なサウス・リムの方向に移動させようというアイデアだった。空缶やバケツなどをたたいて音を出しながら、多くの人間が横に列を作って、鹿の移動作業にかかる。ところが、図らずも、鹿達は、人と人の間を潜り抜けて、元の場所に戻ってしまった。この作業は大失敗に終わったのだ。
このころから、人間の手による肉食動物の殺りくは生体系のバランスを破壊したとい生物学者の主張が注目され始める。
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| ノース・リムから臨むグランド・キャニオン |
その後、鹿の数は増加を始め、1945年までには21,000頭までになる。すると今度は、鹿の増加を食い止めようと、高原における鹿のハンティング許可がハンター達に下りるようになる。そして、1954年までに12,000もの許可が下りたのだ。
人間のエコシステムへの介入に対して疑問の声が上がり始めて久しい。このカイバブ高原の鹿の話は、大学の野性動物を研究する生物学者や学生達の間で多くの議論を醸し出してきた。
カイバブ高原に家畜を放牧したのが、まず、大きな誤りだったと指摘する学者が多い。また、鹿を守るとか家畜を守るという名目で、高原の肉食動物を大量に殺したのも著しい間違えであったと言われている。
このほか、牧畜業によって数を極端に減らしてしまった動物のひとつにプレーリードッグ(右写真)が揚げられる。プレーリードッグは、北米に住むリス科の動物で、地中に穴を掘って生活する。大変愛敬がある小動物で、ツーソンやフェニックスでも公園などでよく見かける。この動物もグランド・キャニオン一帯に多数生息していたが、牧畜の邪魔になるので、人間が穴の中に毒物を入れて、大量に殺してしまった。現在ではこの一帯でプレーリードッグを見ることは、ほとんどないと言われる。
その上、話はプレーリードッグだけに終わらない。このプレーリードッグを捕って食べていた白イタチも、たまったものではない。食料が突然消滅していってしまったのだ。結局、北米の白イタチも絶滅の危機に瀕している。
もう一つの例。レイヨウ(英語でアンテロープ)だ。レイヨウは、放牧している家畜と同じものを食べる。従って、人間が家畜をこの地に移動させたことで、レイヨウは食料不足から、その数を減らした。
オオツノヒツジも牧畜業の被害者で、家畜が持つ病原菌から病気になり、しかも食料不足で数を極端に減らしてしまった。
他にも、ハイイログマ、狼、ジャガーなど多くの動物が、カイバブ高原から姿を消してしまっている。
はたして、人間は自然をコントロールできる存在なのか。人間による生体系の介入と自然破壊をどう捉えるのか。観光化と自然保護とは共存し得るのだろうか。
これは、今後の大きな課題として私達が取り組まなければならない。グランド・キャニオンという地球の宝を、私達の一時的な興味で破壊してしまう訳にはいかない。
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